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実は身近なナッジ理論とは?定義や活用例、フレームワークをわかりやすく紹介!

マーケティング

目次

「ナッジ理論」はご存知でしょうか?これは最近アメリカで生まれた行動経済学の理論で、企業や公共政策などさまざまな分野で活用されています。
クーポンなどの金銭的インセンティブを使った無理なマーケティングをせずに、自然と人々に受け入れられる売り方があれば理想的ですよね!ナッジ理論を使えば、人間の意思決定の癖を利用して、ユーザーに望む行動を自然と選択してもらうことができますよ。
そこで今回は、ナッジ理論の定義や活用例、ビジネスにも役立つフレームワークについて解説していきます!

ナッジ理論とは?

ナッジ理論とは

「ナッジ(nudge)」とは、英語で「注意を引くために肘で軽く突く」「そっと後押しする」「優しく説得する」という意味があります。

ナッジ理論の考え方は、人間は強制されるよりも、優しく伝えられた方が動きやすいという性質にもとづくものです。
たとえば右側通行を徹底してほしい場合、金銭的なインセンティブや罰則を用いるのではなく、相手の意思決定の癖を利用して、目に入る場所に看板やイラストを配置するほうが、相手は望むような行動をしてくれるようになります。

このように、人々が持っている意思決定の癖は色々ありますが、代表的なものとして以下の3つが挙げられます。




ちなみに、ナッジ理論は2008年に、米国の経済学者のリチャード・セイラー教授と法学者のキャス・サンスティーン教授によって提唱されました。
しかし注目が寄せられたのは2017年で、セイラー教授がノーベル経済学賞を受賞したことがきっかけになります。ちなみにナッジ理論は、行動経済学に分類されるものです。

少し難しい話にはなりますが、伝統的な経済学では、計算能力や認知能力が非常に高く、自制心が強く、常に自己利益の最大化のために合理的な行動をする「合理的経済人 (ホモ・エコノミカス) 」を前提としています。

そうはいっても、現実はそういう人ばかりではありませんよね。
行動経済学は、心理学的要素を数理的にモデル化し、現実に合うように経済学の適用範囲を広げたものです。
ナッジを使うことで、意思決定をより合理的なものに近づけることができるとされています。

ノーベル財団の公式サイトでは、セイラー教授の講演動画が紹介されています。講演資料では、参考文献としてナッジ理論の論文も紹介されていますので、より具体的な内容が気になる方はぜひご覧になってください。


負のナッジともいわれる「スラッジ」

豆知識として、ナッジと合わせて紹介しておきたいのが「スラッジ(sludge)」です。両方とも行動経済学に基づいた概念ですが、その目的と影響に大きな違いがあります。

ナッジは、人々の行動をより良い方向に誘導する仕組みですが、一方でスラッジは、いわゆる「負のナッジ」とも言える概念です。
つまりユーザーにとって不利な選択へと誘導し、わずらわしい手続きを要求するなど、合理的な行動を妨げる仕組みを指します。たとえば、補償金の申請やサービスの退会手続きなどにおいて、難しくややこしい手続きを要求することで、ユーザーの利益や意志を阻害します。

一概にスラッジが悪とはいえませんが、結果としてブランドイメージに悪影響を与える可能性が高いため、倫理的な側面も念入りに考慮してください。

身近な活用例3選

では実際にナッジの具体的な事例を見てみましょう。ここでは身近な例として医療現場を取り上げ、「デフォルト」「社会規範」「情報提供」といった思考の癖ごとに紹介していきます!

ジェネリック医薬品のシェア率増加(デフォルト)

デフォルトとは、初期設定のことです。
複数の選択肢がありそれを自由に決断できる状況であったとしても、多くの人がデフォルトを選ぶ傾向があります。

以前、日本の医師は一般的にブランド医薬品(先発医薬品)を処方していました。もしもジェネリック医薬品(後発医薬品)を希望する場合、患者から医師へと申告しなければなりませんでした。

2008年、日本政府は財政負担を削減するために、ジェネリック医薬品の利用を促進する法改正を行い、処方箋の様式を変更しました。
これによって、以前は「後発医薬品への変更可能」であった欄が「変更不可」欄へと変更され、もし患者がジェネリック医薬品を選択しない場合、医師がその記入欄へ署名する必要があります。
さらに、2012年には薬の一般名を記載するように義務付けられ、ブランド医薬品しか使用できない場合には医師が押印しなければなりませんでした。

このようにジェネリック医薬品の利用促進のためにデフォルトが変更されています。この影響により、ジェネリック医薬品の利用率は16.9%(2006年)から、79.30%(2022年3月時点)まで大幅に増加しました。
(参照:厚生労働省|保険者別の後発医薬品の使用割合(令和4年3月診療分)


ここでのナッジの事例は、デフォルトでジェネリック医薬品が選択されるようになっても、ほとんどの患者がブランド医薬品に変えて欲しいと言わなかったことです。
デフォルトからの変更にそれほどの手間がなくてもデフォルトを選択してしまう要因としては、行動経済学でいう現状維持バイアス (変更による心理的負担を損失と捉える)や、暗黙の推奨 (デフォルト提供側からのオススメと捉える) が挙げられます。

ユニフォームで超過勤務を減少(社会規範)

次に社会規範を使ったナッジの事例として、熊本地域医療センターにおける看護師の新しいユニフォーム制度を紹介します。
この医療センターでは、超過勤務と離職率の問題が課題として挙げられていました。超過勤務の要因の一つに、引継ぎ可能な業務を、勤務終了時刻が過ぎていても引き受けてしまっている現状がありました。
本来残業は指示業務なのですが、実際にはちゃんとした指示がなくても、暗黙の了解として使用者側が指示したことにしている組織がほとんどです。それがユニフォームの新制度を取り入れたことで、残業時間の大幅な削減離職率の低下につながったというのです。

具体的には、日勤のユニフォームをピンクに、夜勤のユニフォームを緑にする、「看護師ユニフォーム2色制」を導入しました。

その結果、2013年度には日勤一人あたりの年間平均残業時間が111.6時間でしたが、2018年度には21.7時間まで大幅に激減しています。夜勤にいたっては、なんと1.2時間からゼロになりました。
離職率にも変化が表れ、20%超から9.9%に低下しています
(参照:日本看護協会|「ユニフォーム2色制」と「ポリバレントナース育成」による持続可能な残業削減への取り組み


心理的負担の軽減(情報提供)

医療の現場では、患者の回復が見込めない状態になった際、医師は家族に同意書を求めることがあります。
この同意書は「治療中止同意書」や「延命治療同意書」と呼ばれ、例えば心臓マッサージなどの延命治療を希望するか否かなどのチェック項目があります。

かといって、これは大切な人の命に関わることですので、なかなか簡単に意思を固めることができるわけもありません。多くの人が決断を引き延ばししようとします。
回復の見込みがないことにまずショックを受け、患者自身の意志や自分たちが決断を下すべきかを悩み、どうにか整理をつけながら同意書に署名するのに時間がかかることは当たり前です。

そこで医師は、延命治療は患者にとっても苦痛で負担がかかることであり、多くの家族は患者が苦しまないように選択をしていることを家族に伝えます。
このような「多くの人はそうしている」という情報提供を通じて、相手の意思決定にかかる負担を軽減するしています。このアプローチは、対象者の属性が似ているときにとても有効です。

ビジネスシーンでの応用例3選

このように、ナッジは金銭的インセンティブや罰則を用いることなく、相手の意思決定の癖を利用して「デフォルト」「社会規範」「情報提供」などを提示することで行動変容を促すものです。
ビジネスの場面でも、マーケティングだけではなく、社内のプロジェクトや人材育成で活躍する手段ですので、その活用例をご紹介します。

プロジェクト管理に活用する

自社で大規模なプロジェクトが進行しているとしましょう。ですがプロジェクト管理ツールを用いていたとしても、プロジェクトの規模が大きすぎて、関係者が今どのタスクを進行中で、完了しているのか未完了であるのかが分かりにくいという課題があるとします。
このような状況では結果的に大きなミスや危険な事態に陥りかねませんよね。どうしたらこのような現状を改善できるでしょうか?

そんなときには、プロジェクト管理ツールでの進捗表示を視覚的に工夫します。
例えば、進行中のプロジェクトが「緑=順調」「黄=難航中」「赤=問題あり」というように、色で表示される仕組みを作ります。これにより、マネジメントする人はもちろん、関係者同士でも一目で進捗状況を把握しやすくなり、適切なコミュニケーションが生まれやすくなります。

ここでは、それぞれの進捗状態を表すデフォルトの色を決めておき、他のプロジェクトでも同じ色にするよう社内で一貫しておくと、より効果がでやすいです。

人材育成に活用する

考えている研修プログラムをできるだけ多くの従業員に参加してもらい、積極的に学び取ってもらうためには、どんな方法が適しているでしょうか?

ここで、「デフォルト」の傾向を利用して、出欠確認の仕組みを考えてみましょう。ここで考えられるのは、2つの選択です。

デフォルトを「出席」にする

欠席の場合だけ担当者に連絡するように呼びかけると、デフォルトは出席となります。これにより、参加者は研修プログラムが組織全体にとって重要なものであると感じるでしょう。

デフォルトを「欠席」にする

逆に、出席の場合だけ担当者に知らせるようにすると、デフォルトは欠席となります。これにより、参加者は研修プログラムが特定の人向けに企画されたものだと考えます。


どちらをデフォルトにするかは、何を重要視するかにかかっています。多くの従業員が参加することが最優先なら、デフォルトは出席にするのが良いでしょう。一方で、参加人数が減っても特定の人に積極的な学びを促したい場合は、デフォルトを欠席にしましょう。

ちなみにここでポイントとなってくるのは、「暗黙の推奨」を誰が行っているかです。ナッジの効果は、企画者に対する信頼度にも左右されるということを念頭に置いていてください。

マーケティングに活用する

あなたはパティスリーショップの店長で、今回ケーキビュッフェを開くことになったとします。このイベントの目的は、新しい顧客を引き寄せつつ、既存の顧客を維持することです。

通常の大きなケーキを提供すれば商品の高級感をアピールでき、新規顧客にも魅力的に映ります。しかし既存の顧客に、いつものケーキだけではなく、他のケーキを試してもらいたい場合もありますよね。そんなときはサイズを小さくしてお手頃価格で売ることで、新たな商品を試してみることへのハードルを下げ、現状維持バイアスを乗り越えるように促すことができます。

ビュッフェに関するナッジの研究によれば、野菜料理を手前、肉料理を奥に並べると、野菜料理の選択が増えることが報告されています。
この傾向を活かして、もし新しいケーキを試してもらいたい場合は、顧客にとって手に取りやすい位置に配置すると良いです。これにより、「そのケーキを選ぶことは当たり前」というデフォルトが生まれます。

このように「商品を小さくする」ことや、「手前に配置する」といった方法を通して、顧客が新たな商品を試してみることを促すことができます。

ただし、顧客に対して不利となる行動を促進する場合、それはナッジではなく「スラッジ」となります。
例えば、お皿やカトラリーの大きさを小さくすれば、顧客の摂取量が減ります。また、他人の目を気にして何度も取りに行くことに後ろめたさを感じさせるように促すのはスラッジです。
他にも、もし売り上げが悪く廃棄処分になりそうなケーキがあったとして、それを顧客には人気商品として紹介することもその場しのぎにはなりますが、いつかは信頼を失うことになるので注意しましょう。

ナッジ理論の代表的なフレームワーク

以上、活用例と共にナッジ理論について解説してきました。しかし理論を理解していても実践するのが難しい...ということもありますよね。
そこでナッジ理論を実践する上で、最もよく使われているBASICとEASTという2つのフレームワークを紹介します!ビジネスの場面で役に立ちますので、ぜひマーケティングやプロジェクト進行、人材育成などの場面で意識してみてください。

BASIC

よく使われているのは、2019年にOECDが提案したBASICフレームワークです。

業務プロセスの改善については、一般的にPDCA(計画→実行→評価→改善)が知られていますよね。
BASICも基本的にはPDCAと同様のプロセス管理フレームワークですが、ナッジの特性に特化しています。

具体的には、BASICは以下の5つのステップから成り立っています。


Behavior(行動)

まずはじめに、人々(顧客)の行動を観察します。
なぜ、なにをどのように考えるのかといった定性的な気づきに注目することで、フォーカスすべき課題を見つけ出すことができます。

Analysis(分析)

行動経済学的なアプローチを用いて、顧客の非合理的な選択に焦点を当てながら、その行動の背後にある理由を明らかにします。
具体的には、観察をしながら「なぜそうするのか」という問いを軸に考え、非合理的な選択をより合理的なものに近づけるためのヒントを探しましょう。
顧客の行動を観察するには、例えば実地観察、アンケート、取引履歴の分析などから情報収集するといいですよ。

Strategy (戦略)

次に、行動分析から得られたヒントをもとに戦略を練ります。
マーケティングの観点から自社が達成したいことと顧客の目的を比較することで、双方が目的を達成できるようなアイデアを考えます。
ナッジの基本である「顧客に強制するのではなく、自発的な選択を促すものである」ということを忘れずに、戦略策定します。

Intervention(介入)

アイデアが浮かんで来たら、商品やサービスにどのように適応できるかを考えましょう。
このとき、社内外の関係者の意見を取り入れながら具体的な内容にしていくことも大切です。

Change(変化の計測、見直し)

ナッジを実行に移した結果、顧客の行動変容を起こすことができたかどうかを検証しましょう。
購買データを参考にしながら、顧客に直接ヒアリングできれば、改善点の発見にもつながります。

長期的な効果が期待できそうでしたら、他の商品・サービスにも展開していけるよう、知見を共有できるようなかたちで残しておきましょう。

EAST

これはイギリスの政府機関が考案したもので、4つの構成要素、「Easy」「Attractive」「Social」「Timely」の頭文字をとったものです。
EASTを活用することでナッジの要素を評価して、新たに追加できる要素がないかを検討できる便利なフレームワークです。


Easy(簡単・簡潔)

まず、簡単であるということが大切です。ちょっとでもめんどくさそうだと思うと、人はすぐにそれを避けてしまいます。
ほんのちょっとでも面倒な手順があれば取り除き、簡単に活用したり取り入れることができるかたちにします。シンプルにメッセージを伝えることも大事ですね。

Attractive(魅力的・印象的)

次に、相手の注意を引いたり印象に残すための工夫をしましょう。すこしでも面白くすることが大切です。つまらない日常にほんのちょっとゲーム性を加えてあげるだけで顧客の注意を引くことが可能になります。
また、プロスペクト理論では「人は何かを得ることよりも、損失を回避したいという気持ちの方が強い」といわれています。この特性を利用することで、人々が行動を起こすように促すことができますよ。

Social(社会的)

そして、人の持つ社会性を活用することも大事です。
人間は社会性のある生き物であり、他の人がとっている行動に合わせやすいという傾向にあります。この特徴を利用して、他の人たちはどうしているのかを気づかせてあげましょう。仲間がいるとわかれば、人々は前向きな気持ちになります。
「周りの人もみんなやっている」というメッセージを強調することで、行動を促進しやすくなります。

Timely(タイミング)

最後に、実施するタイミングが適切であるかどうかを見極めましょう。
人の思考や行動は、その時の出来事や情報で簡単に変わることが多いです。人々のニーズが高まっている時に、情報を提示するなど、適切なタイミングで行動を起こす工夫が求められます。

まとめ

以上、ナッジ理論について説明いたしました。
ナッジ理論とは人々の意識や行動における変革を促し、ビジネスの成長や顧客満足度の向上にもつながる有効な手段です。
「人はデフォルトを選びやすい」「人は色に対して意味やイメージを持ちやすい」「人は多くの人が選ぶ選択肢を同じように選びやすい」などの癖を取り入れることで、無意識のうちによい選択をするように誘導することができるようになります。
そして、これはプロジェクト管理や人材育成、マーケティングにも応用できます。

ただし、注意しないといけないのは倫理的な配慮を心がけることです。悪用することは自社のブランドイメージに傷をつけることになるので気を付けてください。

BASICやEASTというナッジ理論を取り入れることを目的にしたフレームワークもありますので、ナッジを取り入れる際にはぜひ参考にしてみてくださいね。

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